長年の活動で培う“見守る力”:ベテランボランティアが語る、選手と組織への貢献
長年の活動で培われる「見守る力」の真髄
パラスポーツの現場では、多岐にわたるボランティアの貢献が不可欠であり、その中でも長年にわたり活動を続けてきたベテランボランティアは、独自の視点と培われた知恵を持っています。単なる手助けに留まらない、選手や組織全体に対する深い洞察に基づいた「見守る力」は、彼らの活動の核をなすものと言えるでしょう。これは、経験豊富なボランティアにしか養い得ない、非常に繊細で重要なスキルです。
現場で発揮される「見守る力」の具体例
私自身の長年の活動を振り返りますと、この「見守る力」が最も試されるのは、選手が困難に直面した際の対応においてでした。ある競技会での出来事です。車いすテニスの選手が、試合中にラケットのガットが切れるという予期せぬトラブルに見舞われました。若いボランティアであれば、すぐに代わりのラケットを用意したり、コーチに報告したりと、直接的な解決策を提示しようと焦りがちかもしれません。しかし、その時私は、すぐに動くのではなく、まず選手の様子を注意深く観察することから始めました。
選手は一瞬戸惑ったものの、すぐに冷静さを取り戻し、自身の予備ラケットを準備し始めました。私がもし先回りして行動していれば、選手の自律的な問題解決の機会を奪っていたかもしれません。私が実施したのは、選手が予備ラケットをスムーズに取り出せるよう、周囲の障害物がないかを確認し、必要に応じて道具が手の届く範囲にあることを確認するといった、あくまで補助的な行動でした。この「見守る」という姿勢が、結果として選手の集中力を乱すことなく、試合への復帰を促すことに繋がったのです。これは、選手個々の能力を信じ、自ら乗り越えるプロセスを尊重することの重要性を示す事例であり、長年の経験がなければ咄嗟には判断できない場面であったと認識しています。
若手ボランティアとの協働と課題
この「見守る力」は、特に若手ボランティアとの協働において、その価値が際立ちます。若い世代のボランティアは、高い意欲と積極性を持っており、これは大変素晴らしいことです。しかし、時に「助けたい」という純粋な気持ちが先行し、選手の自立を阻害する可能性のある過度な介助に繋がりかねないこともあります。
私たちは、若手ボランティアに対し、具体的な介助技術を伝えるだけでなく、「なぜその介助が必要なのか」「選手はどのようなサポートを求めているのか」といった背景や、選手の意思を尊重することの重要性を繰り返し伝えてきました。言葉で「見守る」ことの重要性を説くのは容易ですが、実践を通じてその本質を理解してもらうには時間と経験が必要です。私たちは、具体的な場面に立ち会った際に、「あの時、なぜ私はすぐに動かなかったのか」「選手は何を求めていたのか」といった問いかけを通じて、共に考える機会を設けるよう努めています。これにより、若手ボランティアは単なる作業者ではなく、選手一人ひとりの状況を深く理解し、適切な判断を下せる支援者へと成長していくことができます。
長年の経験が組織にもたらす価値
この「見守る力」は、個々の選手への貢献に留まらず、組織全体の運営にも深く関わってきます。長年にわたり多様な選手、競技、そしてボランティア自身を見てきた経験は、イベント運営における潜在的なリスクを予測し、未然に防ぐための示唆を提供します。例えば、一見些細な動線の問題や、休憩場所の配置、情報の伝達方法など、細部にまで配慮が行き届くのは、過去の経験から得られた洞察があればこそです。
私たちは、これらの知見を組織内で共有し、マニュアルや研修内容に反映させることで、より安全で円滑な運営体制の構築に貢献しています。ベテランボランティアの視点から語られる具体的な事例や教訓は、組織の持続的な成長にとって貴重な資産となり得ます。
結び:未来へ繋ぐ「見守る力」の継承
「見守る力」とは、選手が自らの能力を最大限に発揮できるよう、時には一歩引いて、しかし常に注意深く寄り添うという、究極の支援の形であると認識しています。この力は、長年の活動を通じて培われる忍耐力、洞察力、そして選手への深い信頼に基づいています。
私たちは、この貴重な経験と知恵を、次世代のボランティアへと確実に継承していく責任を負っています。それは、単に技術を教えるだけでなく、パラスポーツという舞台で選手が輝くための、本質的なサポートのあり方を伝えることでもあります。今後も「見守る力」を深化させながら、パラスポーツの発展に貢献してまいります。